三文誤事等
一言で云う、ふざけんるんじゃねぇ。
既に現実は物語を乗り越え黙示録を進行形として過ごしている。
非日常であろう世界が日常に居を構え、それが当たり前の風景として社会を覆う。
どうしたらいいのだろう何ができるのだろう目指すべき場はどこにあるのか。
この物語の登場人物は首を吊るされ誤事等は都市を爆歩し叫びは擬事堂を粉砕する。
あるべき世界だ。しかし、私たちの生きている世界はいつだって今ここなのだ。
わたしたちの心は未来を必要としている。わたしたちの芸能は夢を、見果てぬ夢を
想い語り描き奏で舞い続ける事、その意義はあるのか、悩みは尽きないが、
何はともあれ旅を始める岐路に立つことから始めようと思う。
渋さ知らズ 主宰 不破大輔
三文誤事等(仮)予告の予告編~予告編~本編
(楽団)
北陽一郎 tp
立花秀輝 as
鬼頭哲 bs
山口コーイチ pf
磯部潤 ds
不破大輔 cb
石渡明廣 g (17)
室井潤cb (17)
松本卓也ts,ss (17)
(役者)
林周一
河内哲二郎
奈賀毬子
(ダンサー)
さやか
ペロ
若林淳
高橋芙実
ボス
他
田中篤史(音響)
室井潤 (印刷)
桜座スタッフ(動画配信)
伊達政保 (解説)
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伊達政保
「渋さ知らズとアングラ芝居」
フリージャズ・パフォーマンス集団「渋さ知らズ」は、アングラ劇団の元祖とも言うべき「発見の会」の
劇伴からスタートした。その後、リーダー(ダンドリストと称する)の不破大輔は「発見の会」をはじめ
「風煉ダンス」「ルナパーク・ミラージュ」など多くの劇団の芝居の音楽を担当。現在「渋さ」のレパート
リーでもある「本多工務店のテーマ」「犬姫」「飛行機」「火男」など多くの名曲がそうした芝居から生み
出されていった。また不破大輔はアングラ演劇の持つハチャメチャとも思えるドラマツルギーを自らの表現
の中に吸収し、音楽の持つドラマツルギーと演劇のドラマツルギーを同一のものとして「渋さ知らズ」によ
って展開しようとしていったのである。その一つの方法がテント渋さ「天幕渋さ知らズ」(略称「天渋」
「テン渋」)と言われるものであった。その「天渋」について、不破大輔は2001年「天幕渋さ」のチラシな
どで次のように述べている。
「芸能の発揮には、演者・観客が揃って始めて行なわれる」「旅公演は制作者と演者と受け入れ者の共同
作業の事業であり、制作、宣伝、テント設計、設営、調理、物資調達、積み込み、運搬を全て自分たちで行
なう、賄い旅」「それは、公演を受け入れる、演奏する、観客であることの、まだ見ぬ構造、幸福な出逢い
を模索するものであり、構築するものです。そして興行は、自由な空間の創設、更なる解放区の設営に向か
うことを射程内とし、新たな関係表現の場となることを目論むものとする」
これはアングラ演劇の指向性そのものではないか。
昭和40年代、既存の演劇を批判し、自らの演劇を創造しようとして、「発見の会」「状況劇場」等幾つか
の劇団が活動を始めていた。当初の小劇場運動から脱却し、あるものはテント公演へ、そして地方公演へと
その活動を広げていった。非日常性の時間と空間を、俳優と観客が共有する、劇的空間、祭祀空間の創出が
叫ばれ、巷に騒擾を巻き起こそうとし、演劇の原点に回帰しようとする意味で、「河原者」や「旅芝居」と
いった概念が論じられ、実践に移されていった。テント芝居、旅公演というスタイルも、その中の一つとし
て確立した。そうした動きは、多くの劇団の排出を促していった。時代はそれらを総称してアングラ演劇と
呼んだ。
オイラも昭和42年に偶然見た「発見の会」を皮切りに、状況劇場の紅テント、寺山修司の「天井桟敷」、
「演劇センター68/71」の黒色テント、菅孝行の「不連続線」などを見には行っていたが、別に演劇フリー
クだった訳ではない。昭和40年代激動文化(ラジカルチャー)は、ジャズ、若松プロのピンク映画、アング
ラ演劇を最先端とし、新宿をバックグラウンドとして存在しており、多くの人が学園闘争・街頭闘争も含
めた渦の中で、そうした現場をかけずり回っていたというのが本当のところだった。
そのアングラ演劇の極北と言われた劇団が「曲馬館」である。彼らのドキュメンタリー映画『風ッ喰らい
時逆しま」を撮った映画監督布川徹郎は晩年、「集団活動の中で、指導者が良導するのでは無く、突出した
意見や行為に「運動体」を引きずって行く、異質なモノを包摂する。近代国家原理とは真逆の組織・運動体
を、僕はソコ=曲馬館の磁場に観たので在った。現在では、「渋さ知らズ」が同じような「組織形態」を持
っているように思う」と書いていた。かつてのアングラ劇団の一部は、行政参入で乱立する小劇場の中に先
祖返りをしてしまったように見える。一方、唐十郎の「唐組」はテント公演に拘り続けているし、「状況劇
場」の系譜の「新宿梁山泊」もテント公演を行っている。「曲馬館」の流れを汲む「野戦之月海筆子」や
「水族館劇場」は今もテント公演を続けているのだ。
「渋さ知らズ」は結成25周年企画として、池袋の劇場あうるすぽっとの生誕450周年シェイクスピア・
フェスティバルで『十二夜より十三夜、または勝手にしやがれ』を上演した。渋さが何故シェイクスピアを
という向もあるが、渋さは「発見の会」の劇伴から出発しており、その「発見の会」は81年、詩人・岩田宏
(小笠原豊樹の翻訳者名も有名)訳『十二夜』(「発見の会」へのオリジナル訳で作品集にも未収録)を初
演、83年には当時戒厳令下の韓国でも上演した。今回その台本を元に、川端賞作家・戌井昭人(劇団「鉄割
アルバトロスケット」、芥川賞数度落選作家でも有名)、萩原朔太郎賞詩人・三角みづ紀が台詞を書き下ろ
し、構成・脚本を「発見の会」の上杉清文が行うという豪華版。演出には画家アーティストで「劇団ポニー
ズ」を主宰する青山健一。役者陣は「発見の会」から重鎮・牧口元美を始め輿石悦子、吉田京子、伊郷俊行
(初演時と同役で出演)、「風煉ダンス」から林周一など、また関係する多くの役者が出演、また渋さの舞
踏、ダンサー、パフォーマーも総出演(元劇団出身者が何人もいる)。美術・裏方もすべて関連演劇関係者
が全面協力。音楽・劇伴は当然不破大輔(初演時の杉田一夫の曲も使用)と渋さ知らズ。まさに超豪華版で
あった。
そして2019年、渋さ知らズは結成30周年に「天幕渋さ」と題して、北は下北半島のむつから南は沖縄まで、
「風煉ダンス」や「さすらい姉妹」(水族館劇場の別ユニット)の芝居を挟み込み、10か所で自前のテント
公演を敢行した。テントは設営しやすいように軽量化した竹の骨組みで大きな凧を伏せたような形、3百人
は収容できる。これをミュージシャン、出演者、スタフが自分達の手で設営するのだ。箱根彫刻の森美術館
での公演では、テントそのものも野外オブジェとして位置付けられていた。
沖縄では「風車の便り~戦場ぬ止み音楽祭2019」として開催。初日の昼は辺野古、キャンプシュワブゲ
ート前テント村。渋さ知らズのホーン隊中心による演奏が始まりダンサーも含めてテント前を練り歩く。渋
さならではのダイナミックな音楽に、フェンス内の米兵は何が始まるのかとこちらを伺っている。続いて
「さすらい姉妹」による芝居「陸奥の運玉義留」作・演出・翠羅臼、がテント前の路上で上演。山谷や寿町
の寄せ場などで路上芝居を行ってきたこのユニット、まさにこの場にふさわしい。沖縄、東北を舞台として
琉球とアイヌを通底しようとするこの芝居を、大久保鷹ら出演者は途中のスコールをものともせず熱演。最
後は海勢頭豊氏の歌でイベントを終え、その後座り込みが行われた。
夜は那覇新都心公園内に設営したテントで「天幕渋さ」と題し渋さ知らズオーケストラの単独公演。テン
トの正面には小テントが幾つか並び飲食などのマルシェとなっていた。ライブは渋さ特別編成チビズからス
タート。合間に「風煉ダンス」の芝居(白崎映美も劇中歌一曲)を挟み、うじきつよしのギターを加えてフ
ルオーケストラによる強烈な演奏。ゲストに沖縄民謡界の巨匠・大工哲弘氏を迎え、渋さをバックに「生活
の柄」「美しき天然」「お富さん」などを歌い上げた。最後にソロで極め付け八重山民謡「トゥバラーマ」。
それまで興奮していた観客が静かに聞き入っていた。やはりここは沖縄なのだ。その後渋さの怒濤のような
演奏と熱狂でライブは終了した。
翌日は昼から同じ天幕で「戦場ぬ止み音楽祭」。渋さチビズから始まり、島唄の堀内加奈子、白崎映美は
「風煉ダンス」を従え、演劇「まつろわぬ民」のシーンを再現するかのように歌い、石原岳&トディ、渋さ
を加えたマルチーズロックなど、海勢頭豊の歌に米軍演習場実力占拠の喜瀬武原闘争を思い出し、地元のフ
ラチーム「ウィオハナフラ」、アンニュイで恐ろしくもある池間由布子の歌、「さすらい姉妹」の芝居、最
後は渋さ知らズにラップの大袈裟太郎やPJが加わり、盛り沢山で終了した。
「渋さ知らズ」はこうしてテント旅公演を演奏表現活動に繰り込む事により、自前で劇的空間を作り上げ、
既存のステージに縛られない自由な演奏と音楽によって、観客と一体となった祝祭空間を創出しようとした
のだ。それこそアングラ演劇が目指した空間そのものでもあった。
伊達政保(だて・まさやす)。1950年生まれ、福島県の会津出身。中央大学文学部社会学卒。音楽評論家。日本犯罪社会学会員。首都圏河内音頭推進協議会会員。著書『現在につづく昭和40年代激動文化(ラジカルチャー)』(汎世書房)など。『ラジカルチャー対談集(仮)』刊行予定。